和気町で暮らし始めて驚いたのは、同じ苗字の多さです。本家を「株内」、分家を「株分け」と呼び分ける独特の文化は、こちらに移住してきてはじめて知りました。苗字だけでは区別がつかないため、日常的にみなさん下の名前で呼び合われており、行事の際も「和男さんの家の向かい」といった表現で場所が示されます。新参者にとって、この地域の地縁と地図を一致させるのは最初の難関であり、今でも苦労しているところです。

しかし、近所のお年寄りと茶を囲めば、驚くような話が飛び出します。家系の歴史や子どもの頃の土葬の記憶、今では想像もつかないような和気銀座と呼ばれた往時の賑わい……。手作り味噌やこんにゃく作りを教わる時間は、何よりの贅沢です。ただ、こうした伝承の担い手は70〜80代が中心で、10年後には薄れてしまうかもしれません。

有志による継承の会もありますが、逆を言えば、この50年の間に行事の簡略化や消滅が進んだことは想像に難くありません。田舎暮らしは、単なるスローライフではありません。消えゆくかもしれない土地の記憶に触れ、そのバトンを一時でも預かるんだということにも、ぜひ楽しんで取り組んでほしいと思います。
